火災保険シリーズ第3回です。
前回は、「火災保険はどこまで補償される?」というテーマで、火事だけではなく、台風や落雷、水濡れ、盗難など、火災保険の補償範囲について整理しました。
その中で少し触れたのが、「水災補償」です。
では、吹田で家を建てる、あるいは家を購入するとき、水災補償は本当に必要なのでしょうか?
吹田市は海に面していません。淀川沿いの大阪市内などと比べると、「吹田なら水害はそれほど心配しなくてもいいのでは?」という印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、吹田市のハザードマップを実際に確認すると、そんなに単純な話ではありません。今回調べて分かったのは、同じ吹田市でも、住む場所によって水災リスクがかなり違うということです。
この記事でお伝えしたいこと
- 「水災」の定義:外水氾濫・内水氾濫・高潮・土砂崩れと「水濡れ」の違い
- 吹田市の南北地形(標高10mの神崎川・安威川沿い低地 vs 標高20〜100mの千里丘陵)
- 安威川ダム運用開始に伴う洪水浸水想定区域60%減少と、残るリスクの境界線
- 下水道排水能力を超える「内水氾濫(想定最大1時間147mm)」と海のない吹田の「高潮」
- 吹田市の水災付帯率47.9%と水災等地(1〜5等地)から考える、土地ごとの補償判断
そもそも「水災」とは洪水だけではない
まず確認しておきたいのが、水災補償の「水災」とは何を指すのかです。
水災には、河川があふれる外水氾濫だけではなく、下水道などの排水能力を超えた雨による内水氾濫、高潮、土砂崩れなどもあります。日本損害保険協会も、水災には外水氾濫、内水氾濫、高潮、土砂崩れ、融雪洪水などがあり、火災保険に水災補償を付けることで補償対象とすることができると説明しています。
なお、前回の記事で取り上げた、給排水設備の事故などによる「水濡れ」と、今回の「水災」は別の補償です。ここは名前が似ているので注意したいところです。
吹田は「南の低地」と「北の丘陵」で地形が大きく違う
吹田の水災を考えるうえで、まず知っておきたいのが地形です。
吹田市の公式資料を見ると、市南部の神崎川・安威川沿いには標高10m程度の低地が広がる一方、中央部から北部は標高20~100m程度の千里丘陵で構成されています。
つまり、「吹田市」という一つの市だけを見て、水害リスクを判断すること自体に無理があるということです。
千里丘陵にある住宅地と、神崎川・安威川に近い南部の低地では、同じ吹田でも条件が大きく違います。だから水災補償についても、「吹田だから必要」「吹田だから不要」という判断ではなく、実際に住む場所を見る必要があります。
まず確認したいのは「洪水ハザードマップ」
吹田市では、2025年12月作成の洪水ハザードマップが公開されています。これは想定最大規模の降雨によって河川が氾濫した場合に、どこまで浸水する可能性があるか、そしてその深さを示したものです。
市の立地適正化計画を見ると、吹田市南部には洪水による浸水想定区域が広がっています。
ただし、ここで一つ大きな変化があります。安威川ダムです。
安威川ダムができて、吹田の洪水リスクは下がった
安威川ダムは2023年9月に管理運用を開始し、2024年3月に建設事業が完了しました。
吹田市の立地適正化計画では、安威川ダムの建設に加え、流出抑制施設や神崎川の河床掘削などによって、洪水浸水想定区域は整備前と比べて60%程度減少すると見込まれています。これは非常に大きな変化です。
例えば市の資料では、安威川ダム等の整備によって、阪急吹田駅周辺では「2m以上」から「浸水しない」へ、江坂駅周辺でも「2m以上」から「浸水しない」へと想定が変化しています。JR吹田駅周辺についても、浸水しないエリアや0.5m未満となるエリアが拡大するとされています。
昔の水害イメージだけで現在の吹田を判断するのも正確ではありません。治水対策によって、リスクは確実に変わっています。
ただし、ここで「安威川ダムができたからもう大丈夫」と考えるのも違います。市の同じ資料では、ダム供用後でも高城町・日の出町・南正雀などの一部では4m以上の浸水深が予測される場所が残るとされています。
なお、この整備後の想定は安威川・山田川・正雀川・高川の洪水リスクを対象としたもので、神崎川・糸田川・上の川については整備後の浸水想定が公表されていないという注意点もあります。
つまり、リスクは大きく下がった。しかしゼロになったわけではない。これが現在の吹田を見るうえで重要なポイントだと思います。
そして、吹田では「内水氾濫」も忘れてはいけない
水害と聞くと、「近くに大きな川があるかどうか」を最初に見る方が多いと思います。しかし、吹田ではもう一つ確認しておきたいものがあります。内水氾濫です。
内水氾濫とは、短時間に大量の雨が降り、下水道などの排水能力を超えることで、川があふれていなくても道路や宅地に水がたまってしまう現象です。
吹田市の資料では、丘陵地域を除いた南部の一部について、雨水を直接河川へ排水できず、ポンプで排水する必要がある「雨に弱い地形」と説明しています。市域の4分の1弱にあたる約838haでは、古い下水道施設の整備水準が低かったことなどから、市は「雨水レベルアップ整備事業」を進め、浸水被害の軽減に努めています。
さらに、2025年12月には新しい内水ハザードマップも作成されました。このマップは、吹田市の場合1時間147mmという想定最大規模降雨を前提に、下水道などで雨水を排除できなくなった場合の浸水をシミュレーションしています。
ここから分かるのは、「川から離れている=水災リスクがない」ではないということです。住宅を購入するときは、洪水ハザードマップだけではなく、内水ハザードマップも確認しておきたいところです。
海のない吹田に「高潮ハザードマップ」がある?
今回調べていて、意外に感じる方が多いと思ったのが高潮です。吹田市は海に面していません。それでも、吹田市には高潮ハザードマップがあります。
なぜでしょうか。台風などによって大阪湾の潮位が上昇すると、河川へ海水が逆流し、河川の水位が上がることで周辺が浸水する可能性があるためです。吹田市も、市内で想定される高潮災害について、河川の逆流に伴う洪水によるものと説明しています。
ただし、高潮浸水想定区域があるのは市域南部です。市の高潮ハザードマップには南部だけが掲載されており、市域北部には高潮浸水想定区域の指定はありません。これも、「吹田市全体」を一括りにできない理由の一つです。
なお、現在公開されている吹田市高潮ハザードマップは2022年作成です。洪水・内水ハザードマップの2025年12月版とは作成時期が異なります。
実際、吹田では何%の人が水災補償を付けている?
ここでもう一つ興味深い数字があります。
損害保険料率算出機構は2025年11月、2024年度の水災補償付帯率を市区町村別に公表しました。このデータを確認すると、吹田市の水災補償付帯率は47.9%。つまり、火災保険契約のうち水災補償が付いているものは半数を下回っています。
同じ2024年度では、大阪府全体が57.9%、全国では61.8%。吹田市の47.9%は、いずれよりも低い数字です。
ただし、「吹田では半数以上が付けていないから、水災補償はいらない」という意味ではありません。付帯率は、あくまで実際の契約状況を表した数字です。どの地域、どの建物で水災補償が必要かを判断する数字ではありません。むしろ吹田の地形を見ると、北部の丘陵地と南部の低地が同じ一つの数字にまとめられていること自体が、この問題の難しさを表しているように思います。
保険料にも「水災リスクの地域差」が反映されるようになった
火災保険の世界でも、水災リスクを地域によって分ける考え方が進んでいます。
損害保険料率算出機構では、参考純率の水災リスクを市区町村ごとに1等地から5等地までの5区分に分類しています。1等地が相対的に最もリスクが低く、5等地が最も高い区分で、水災保険料部分では5等地は1等地の約1.5倍です。
そして、この区分は洪水だけで決められているわけではありません。外水氾濫だけではなく、内水氾濫や土砂災害なども含めて評価されています。そのため、洪水ハザードマップの色と水災等地が一致しない場合もあります。ここでも、「洪水ハザードマップだけ見ればいい」という話ではないことが分かります。
では、吹田で水災補償は必要なのか?
ここまで調べると、私たちの答えはかなり明確です。
「吹田市だから必要」「吹田市だから不要」とは判断できません。見るべきなのは、市ではなくその土地です。
例えば、洪水や内水、高潮の浸水想定区域に入っている土地であれば、水災補償を外す判断はかなり慎重にした方がいいでしょう。
反対に、千里丘陵などで洪水・内水・高潮の想定を確認してもリスクが低く、土砂災害の区域にも該当しない場合には、保険料との差を見ながら水災補償の必要性を検討する余地はあります。
ただし、ハザードマップで色が付いていないからといって、「絶対に浸水しない」わけではありません。吹田市自身も、洪水・内水の両ハザードマップについて、掲載区域以外でも浸水が発生する可能性があると注意喚起しています。
そのため、私たちなら土地を見るときには、洪水・内水・高潮のハザードマップ、土砂災害の指定、周囲との高低差、前面道路の高さ、過去の浸水履歴まで確認したうえで判断します。
吹田市では過去の浸水被害箇所も公開されています。ただし、この履歴も市に通報があり確認できた場所であり、すべての浸水箇所を網羅したものではない点には注意が必要です。
水災補償を考えることは、「保険を選ぶこと」だけではない
今回、水災補償について改めて調べて感じたのは、これは火災保険だけの話ではないということです。
- これから土地を買うのであれば、その土地にどんな水害リスクがあるのかを知る。
- すでに住んでいるのであれば、自宅のリスクと現在の火災保険の補償内容が合っているか確認する。
- そして新築するのであれば、ハザードの有無だけではなく、敷地と道路の高低差や1階床の高さ、設備の配置なども含めて考える。
住宅会社としては、「水災補償を付けるかどうか」を考える前に、「その家にはどんな水災リスクがあるのか」を知ることの方が先だと思います。
吹田だからではなく、「この土地ならどうか」で考える
吹田市は、南部の低地から北部の千里丘陵まで、地形が大きく変化する街です。
さらに安威川ダムの運用開始によって洪水リスクが大きく軽減された地域がある一方、現在も浸水想定が残る地域があります。河川から離れていても内水氾濫があります。海に面していなくても、市南部には高潮浸水想定区域があります。
だからこそ、「吹田で水災補償は必要ですか?」という質問に、市全体で一つの答えを出すことはできません。
私たちなら、「まず、その家の場所を見ましょう」と答えます。
火災保険料が上がっている今、必要のない補償まで何となく付ける必要はありません。一方で、数万円の保険料を抑えるために、その土地で現実的に考えられる大きなリスクまで外してしまうのも違います。
大切なのは、自分が住む場所のリスクを知ったうえで、必要なところに保険をかけること。これが、吹田で水災補償を考えるときの一番大切な考え方ではないでしょうか。
次回予告
次回の火災保険シリーズでは、もう一つ判断に迷う補償を取り上げます。
「地震保険は必要?」
2018年の大阪府北部地震を経験した吹田で、地震保険はどこまで役に立つのか、そもそも火災保険とは何が違うのか。次回はそこを詳しく調べてみたいと思います。
※火災保険の補償内容、保険金の支払条件、自己負担額、保険料等は保険会社・商品・契約時期・契約内容によって異なります。また、ハザードマップは一定の条件に基づく被害想定であり、実際の災害の発生や被害を保証・予測するものではありません。個別の保険契約については、保険会社または代理店へご確認ください。
今 利之(こん・としゆき)
アイワホーム株式会社 マーケティングディレクター
2005年入社、吹田の地で21年。新築営業・リフォーム・メンテナンス、賃貸、工事部門など、現場の最前線で歩んできました。
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