物件のチラシやサイトを見ていると、必ずどこかに書いてあります。
「○○駅 徒歩10分」
こう書いてあれば、たいていの方は「家を出て10分歩けば駅に着くんだな」と思われると思います。
ところが実際に歩いてみると、10分を過ぎてもまだ駅に着かない。そんな経験をされた方、けっこう多いのではないでしょうか。
私は現場を長く見てきた人間なので、この質問はお客様から本当によく受けます。「歩くのが遅かったんですかね」と苦笑いされる方もいますが、実はそうとは限りません。
不動産広告の「徒歩10分」は、誰かが実際にストップウォッチで歩いて測った10分ではないんです。
今日は、この「徒歩○分」の正体について、吹田で物件をご案内してきた立場から整理してみようと思います。
この記事でお伝えしたいこと
- 不動産の表示に関する公正競争規約における「道路距離80m=徒歩1分(端数切り上げ)」の計算ルール
- 1963年制定時のエピソードと「誰が測っても同じ数字になる共通のものさし」の必要性
- 実際の所要時間とズレる要因(信号待ち・坂道傾斜・敷地起点・駅出入口からホームまでの距離)
- 2022年9月規約改正による「最も近い区画と最も遠い区画の併記」ルール
- 広告の徒歩分数を正しく理解した上で、実際に自分の足で歩いて確認する重要性
徒歩1分は「80m」で計算されている
まず結論からお伝えすると、不動産広告の徒歩所要時間は道路距離80mにつき徒歩1分として計算する、というルールが決まっています。1分未満の端数は切り上げです。
これは各社が自由に決めているものではなく、「不動産の表示に関する公正競争規約」という業界共通のルールで定められています。
例えば駅までの道路距離が500mなら、
500m ÷ 80m = 6.25分 → 徒歩7分
800mなら、
800m ÷ 80m = 10分 → 徒歩10分
801mなら10.0125分になるので切り上げて 徒歩11分 です。
つまり広告の「駅徒歩10分」は、正確に言うと「規約で定められた方法で測った道路距離を、80m=1分で機械的に換算すると10分になる」という意味の数字なんですね。
なぜ「80m」なのか
このルールの元になっている「不動産の表示に関する公正競争規約」は、1963年(昭和38年)に制定されました。今から60年以上前の話です。
なぜ70mでも100mでもなく80mだったのか。よく語られているのが、規約を作る過程で公正取引委員会の女性職員がヒールを履いて廊下を歩き、その歩行速度がおよそ分速80mだったことが基準になった、というエピソードです。
ただし、これはあくまで当時の制定経緯として業界内で語り継がれている話であり、現在の規約そのものに「ヒールで歩いたから80mにした」と明記されているわけではありません。今、ルールとして明確に定められているのは、あくまで「道路距離80mにつき1分で算出する」という計算方法そのものです。
なぜ実際に歩いた時間じゃダメなのか
ここで素朴な疑問が出てきます。今なら地図アプリもありますし、担当者が実際に歩いて測ることもできます。それなら実測の方が正確なのでは、と思いますよね。
でも、ここに80mルールの本当の意味があります。
同じ物件を、A社とB社が同時に広告したとします。歩くのが速いA社の担当者は「5分で着いたから徒歩5分」。ゆっくり歩くB社の担当者は「8分かかったから徒歩8分」。これでは同じ物件なのに会社によって表示が変わってしまい、お客様は物件を公平に比較できません。
だからこそ、「誰が測っても・どの会社が広告しても同じ数字になる」共通のものさしが必要だったわけです。80m=1分は、あなたが何分で歩けるかを予測するための数字ではなく、物件同士を同じ条件で比較するための基準なんですね。
信号待ちの時間は含まれていない
実際の所要時間と広告表示がズレる大きな理由の一つが、信号待ちです。
徒歩所要時間の算出では、信号や踏切で待つ時間は考慮しなくてよいことになっています。途中に交差点が2つあって、それぞれ1分近く信号を待つ道なら、実際の所要時間は広告表示より確実に長くなります。それでも広告上はあくまで道路距離ベースの「徒歩10分」です。
坂道でも平坦な道でも、同じ80mで計算される
もう一つが坂道です。これは吹田で家探しをされている方には、かなり大事なポイントだと思います。
同じ800mでも、平坦な道を歩くのと、ずっと坂を上って歩くのとでは、体感時間も疲れ方もまったく違います。ところが徒歩表示では傾斜を考慮せず、真上から見て平坦とみなした距離で計算します。つまり「駅徒歩10分」という数字が同じでも、実際の歩きやすさは物件によって違うということです。
私自身、現場で物件をご案内する中で、平坦な10分と坂道混じりの10分ではお客様の反応がまるで違うのを何度も見てきました。数字だけでは伝わらない部分です。
「駅」の到着地点はホームではなく出入口
さらに意外と知られていないのが、「駅に着いた」とみなす地点です。
現在のルールでは、駅などの施設は原則として、利用時間内に常時利用できる出入口を到着地点として道路距離を測ります。つまり駅のホームではありません。物件から駅入口まで10分、そこから改札まで2分、ホームまでさらに2分、という駅であれば、実際に電車に乗る場所までは14分ほどかかっていても、広告上は「駅徒歩10分」と表示されることがあります。大きな駅や地下駅ではこの差がさらに広がることもあります。
スタート地点も「玄関先」とは限らない
物件側の起点にもルールがあります。原則として、その敷地のうち目的施設に最も近い地点が起点になります。マンションやアパートであれば建物の出入口が起点です。一戸建ての場合も、必ずしも自宅の玄関を開けたところから測っているとは限りません。大きな差になるケースばかりではありませんが、これも実際の生活時間と広告表示が完全には一致しない理由の一つです。
ルールも少しずつ見直されている
この徒歩表示のルール、実は60年間まったく変わっていないわけではありません。80m=1分という基本の換算方法は今も変わりませんが、2022年9月1日に規約が改正され、複数区画を販売する分譲地などでは、それまで最も近い区画だけを基準に表示していたものが、最も近い区画と最も遠い区画、双方の所要時間を表示することに変わりました。
そのため最近は、
「○○駅 徒歩2分〜5分」
のような表示を見かけるようになっています。距離を測る起点・着点についても、この改正でより明確化されました。消費者がより正確に物件を比較できるよう、広告ルール自体も少しずつアップデートされているということですね。
では「徒歩10分」は信用できないのか
ここまで読むと「じゃあ徒歩表示ってあまり意味がないのでは」と思われるかもしれませんが、私はそうは思いません。
同じ80m=1分というルールですべての物件が計算されているからこそ、
- A物件:駅徒歩5分
- B物件:駅徒歩10分
- C物件:駅徒歩15分
と並んだときに、駅との距離感を瞬時に比較できます。問題なのは「徒歩10分=自分も必ず10分で着く」と受け取ってしまうことです。徒歩表示は実測時間ではなく、距離を時間に置き換えた共通のものさし、と理解しておくのが一番わかりやすいと思います。
家を選ぶなら、一度その道を歩いてみてほしい
これは私が現場で常にお客様にお伝えしていることでもあるのですが、駅までの距離を重視されるなら、ぜひ一度ご自身の足で歩いてみてください。
信号はいくつあるか。坂道はあるか。歩道は歩きやすいか。夜でも明るいか。車通りは多くないか。雨の日でも歩きやすそうか。お子さんと一緒でも安心して歩けるか。駅入口から実際に使う改札やホームまでどれくらいかかるか。
同じ「駅徒歩10分」でも、信号がほとんどなく平坦で広い歩道を歩く10分と、坂道があり交通量の多い道路を何度も横断する10分とでは、暮らし始めてからの感覚はまったく違います。数字だけでは見えてこない部分こそ、実際に歩いてみることでしか分かりません。
「駅徒歩10分なのに10分で着かなかった」という経験があったとしても、その表示が間違っているとは限りません。不動産広告の「徒歩○分」は、あなたの所要時間を約束する数字ではなく、物件までの距離を比較するための共通のものさしです。そう理解した上で、最後はご自身の足で確かめていただく。それが一番確かな「徒歩○分」の使い方だと思います。
今 利之(こん・としゆき)
アイワホーム株式会社 マーケティングディレクター
2005年入社、吹田の地で21年。新築営業・リフォーム・メンテナンス、賃貸、工事部門など、現場の最前線で歩んできました。
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