「新築なのに、3階の子ども部屋だけWi-Fiが弱い」

引き渡しから数ヶ月経ったお客様から、そんな相談を受けることが実はよくあります。

光回線は速いプランに変えた。ルーターも新品。それなのに、寝室まで行くと動画が止まる。ルーターの近くでは快適なのに、少し離れると急に遅くなる——。

こうしたことは、3階建ての新築住宅では珍しくありません。

前回の記事では、Low-Eガラスによって外から入ってくる携帯電話の電波が弱くなることがある、という話をしました。今回は似ているようで、まったく別の話です。

Wi-Fiは基本的に「家の中にある機器から、家の中へ飛ばす電波」です。そして新築住宅の場合、実は「どんな高性能ルーターを買うか」より先に考えておきたいことがあります。それが、

  • どこからWi-Fiを飛ばすのか
  • そこまでどうやってLANを持っていくのか

という点です。今回は、私がこれまで現場で見てきた経験も踏まえながら、新築時に押さえておきたいWi-Fi環境の考え方をまとめます。

この記事でお伝えしたいこと

  • 3階建てでWi-Fiが弱くなる原因:距離・床・壁の障害とルーターの配置問題
  • 「通信機器を隠す収納」と「電波を飛ばす開けた場所」を分ける設計手法
  • ONU(光回線引込)とWi-Fiアクセスポイント(2階中央等)の分離配置
  • 周波数帯の違い(2.4GHz・5GHz)とWi-Fi 7でも変わらない「電波法による出力上限」
  • 無線メッシュの盲点を克服する「各階LAN配線(有線バックホール)」の強み
  • 全部屋配線ではなく「交換・追加できる配管ルート(CAT6A等)」を残す将来への備え

3階建てだからWi-Fiが弱い、とは限らない

私たちアイワホームでは3階建て住宅を建てることも多くあります。では「3階建てならWi-Fiは弱くなるのか」というと、必ずしもそうではありません。

ただし3階建ては2階建てよりも、

  • ルーターから離れる
  • 床をまたぐ
  • 壁をまたぐ

という条件が増えやすいのは事実です。例えばWi-Fiルーターが1階の玄関近くにあり、スマートフォンを3階の一番奥の部屋で使うとします。電波は1階→2階→3階と、床や壁を通過しながら進むことになります。当然、ルーターのすぐ近くと同じ条件ではありません。

Wi-Fiルーターの設置場所については、周囲に障害物がない高めの場所で、できるだけ家の中心に近い位置に置くことが望ましいとされています。逆に、金属製の棚の中や床に近い場所は電波が弱まりやすい設置場所です。

つまり問題の本質は「3階建てだから」ではなく、「3階建てなのに、Wi-Fiを飛ばす場所を考えていなかった」というケースの方が多いのです。

「見えないように収納したい」がWi-Fiには不利なことも

新築では、光回線の機器やONU、ルーター、LANケーブルなどを「全部収納の中に入れてしまいたい」と考える方が多くいらっしゃいます。見た目は確かにすっきりします。

ところがWi-Fiの電波だけを考えると、それが最適とは限りません。特に家の端にある収納、金属製の棚の中、床に近い場所などは不利になりがちです。

ここに住宅設計として少し面白い矛盾があります。通信機器は隠したい。でもWi-Fiは開けた場所から飛ばしたい。この二つは、必ずしも同じ場所で解決する必要はありません。

ONUの場所とWi-Fiを飛ばす場所は、別でもいい

ここは新築時にぜひ知っておいてほしいポイントです。

光回線を家へ引き込むと、ONU(光回線終端装置)という機器が設置されます。その近くにWi-Fiルーターを置くケースが多いため、「光回線を引き込んだ場所=Wi-Fiルーターを置く場所」だと思われがちですが、必ずしも同じ場所である必要はありません。

例えば、

  1. 玄関収納などへ光回線を引き込む
  2. そこにONUや通信機器をまとめる
  3. LANケーブルを2階中央付近まで配線する
  4. そこにWi-Fiアクセスポイントを設置する

という方法もあります。「インターネット回線を管理する場所」と「Wi-Fiを飛ばす場所」を分けることができるわけです。

3階建てなら、2階の比較的中央付近からWi-Fiを飛ばせれば、1階・3階の両方をカバーしやすくなる場合があります。もちろん間取りや建物形状によって最適な場所は変わりますので、家を建てる段階で考えておく意味があります。

2.4GHzと5GHz、数字が大きい方が遠くまで飛ぶ?

これも意外と誤解されているポイントです。Wi-Fiには主に2.4GHz、5GHz、6GHzといった周波数帯があります。「5の方が2.4より数字が大きいから、強くて遠くまで飛びそう」と思うかもしれませんが、実際はむしろ逆の面があります。

  • 2.4GHz:壁などの障害物の影響を受けにくく、比較的遠くまで届きやすい
  • 5GHz:高速通信に向いているが、壁や距離の影響を受けやすく、届く範囲が狭くなることがある

ですから「ルーターの近くではすごく速いのに、3階へ行くと急に弱い」ということも、周波数帯の特性を考えれば不思議ではないのです。

「最新のWi-Fi 7なら家中届く」は違う

現在はWi-Fi 7対応ルーターも登場しています。通信速度や安定性は大きく進化していますが、新しい規格になったからといって電波が何倍も遠くまで飛ぶわけではありません。

Wi-Fi機器が送信できる電波の出力(最大等価等方輻射電力)は電波法によって上限が定められており、この上限は規格が新しくなっても変わりません。そのため、最長の飛距離自体が新しい規格によって伸びるわけではないのです。

これは新築住宅を考えるときに結構重要な点です。住み始めてから「3階まで届かないなら、もっと高性能なルーターを買えばいい」だけで解決するとは限らないからです。機械を新しくするより、電波を出す場所を変える方が効果的なケースも少なくありません。

では、メッシュWi-Fiなら解決?

3階建てや広い住宅では、メッシュWi-Fiも有力な方法です。1階・2階・3階に複数のWi-Fi機器を配置し、それぞれが連携して家全体をカバーする仕組みです。

ただし「3階に子機を置けば必ず大丈夫」というわけでもありません。一般的な無線メッシュでは、スマートフォンと子機だけでなく、親機と子機の間もWi-Fiで通信しています。つまり、3階に置いた子機自体が、親機の電波を十分に受け取れなければ意味がないのです。

そこで、新築住宅だからこそできる方法があります。

各階までLANを引いておく

例えば1階・2階・3階へLAN配線を用意しておけば、Wi-Fi機器同士を無線ではなくLANケーブルで接続することができます。いわゆる「有線バックホール」です。

対応するメッシュ機器同士をLANケーブルで接続すると、Wi-Fiで中継するよりも速度低下や遅延を抑えられ、安定したネットワークを構築しやすくなります。例えば、

  • 1階:Wi-Fiアクセスポイント
  • 2階:Wi-Fiアクセスポイント
  • 3階:Wi-Fiアクセスポイント

をLANでつなぐ構成です。もちろん、最初から全部設置する必要はありません。重要なのは「必要になったら付けられる状態にしておく」ことです。

新築で本当に大切なのは「今のルーター」ではない

Wi-Fiルーターは買い替えられます。5年後、10年後には今とは違う通信規格が主流になっているかもしれません。でも、壁の中の配線は後から変更するのが簡単ではありません。

新築住宅に光回線を導入する際には、設計段階から

  • 光回線の引込用配管
  • 引込場所
  • ONUの設置場所
  • 各部屋へのLAN配線用配管

を考えておくことが推奨されています。これが、新築住宅とWi-Fiを考えるうえで、一番重要なところだと私は思います。

「全部屋にLAN」が正解とは限らない

では、新築なら全部屋にLANコンセントを付ければいいのでしょうか。これも一概には言えません。

今はスマートフォンだけでなく、テレビやゲーム機、家電などもWi-Fiでつながる時代です。すべての部屋に何本もLANを配線しても、結局ほとんど使わなかった、ということも十分考えられます。

それよりも、

  • Wi-Fiアクセスポイントを置きそうな場所
  • テレビ周辺
  • 書斎・デスク周辺
  • ゲーム機など安定した通信が欲しい場所

を考えておき、可能であれば将来ケーブルを交換・追加できる配管ルートを残しておく。こちらの方が、住宅としては長く対応できます。

LANケーブルも永遠ではない

現在、新築時のLAN配線としてはCAT6やCAT6Aなどが候補になります。特にCAT6Aは10Gbps通信にも対応できる規格で、現在の住宅としては十分高性能な選択肢です。

ただし「CAT6Aを入れれば一生大丈夫」と考えない方がいいでしょう。住宅は30年、40年と使います。その間、通信技術がずっと同じである可能性は低いはずです。だから私は、今どのケーブルを入れるか以上に「将来ケーブルを変えられるか」という視点の方が大切だと考えています。

3階建てなら「Wi-Fiの出口」を考えておく

もし3階建ての新築住宅を計画されるなら、「ルーターはどこに置きますか?」だけでなく、

  • 光回線をどこから引き込むのか
  • ONUなどの機器をどこにまとめるのか
  • どこからWi-Fiを飛ばしたいのか
  • 1階や3階にも将来アクセスポイントを追加できるのか

まで考えてみてください。最初から高価な通信設備をたくさん付ける必要はありません。Wi-Fiが十分届けば、それでいいのです。もし住んでから「3階だけちょっと弱いな」となったときに、「では3階のLAN端子へアクセスポイントを付けよう」と対応できれば十分です。

ルーターは買い替えられる。でも壁の中は簡単には変えられない

新築住宅では、キッチン、コンセント、照明、収納などについては、かなり細かく打ち合わせをします。ところがWi-Fiについては「ネットは住んでから考えればいい」となりがちです。

確かにルーターそのものは、家が完成してから選べます。でも、そのルーターから電波をどこで飛ばすか、そこまでLANを持っていけるか、という部分は、新築時だからこそ簡単にできることがあります。

Wi-Fiが弱かったら、より高性能なルーターを買う。それも一つの方法です。でも3階建てでは「強いルーターを1台置く」より「必要な場所からWi-Fiを飛ばせる家にしておく」という考え方もあります。

ルーターは数年後に交換できます。壁の中の配線は、そう簡単には交換できません。新築時にWi-Fiについて考えるなら、機械の性能だけではなく「電波とLANの通り道」まで少し考えておく。それが、これからの住宅では意外と重要になってくるのではないかと思います。

今 利之(こん・としゆき)
アイワホーム株式会社 マーケティングディレクター
2005年入社、吹田の地で21年。新築営業・リフォーム・メンテナンス、賃貸、工事部門など、現場の最前線で歩んできました。


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